私達の目標

多くの人が情報を共有できる、新しい形の本を提供したい

2016年に障害者差別解消法が施行されました。この法律施行のお陰で、教育現場でも職場でも、視覚障害者を含む障害者が増えています。しかし、日本では、差別解消に向けたボトムアップの活動が弱かったため、いろいろな形で、ひずみが生じています。そのひずみを、官公庁に頼るだけでなく、私達で解決する方法の一つを、提案したいのです。

まず、大学教育の現場を考えてみましょう。日本の大学で学ぶ視覚障害者数は、世界の先進国と比較して、極めて低いと言えます。現状を改善するには、文部科学省や教育委員会が、視覚障害者が受ける初等中等教育の中で、大学に進学するための教育を強化する必要があります。それには、情報技術を活用することが不可欠です。結論から言うと、情報技術を教えられる教員が少ない現状を、変えねばなりません。欧米がやったように、教員枠外で、情報技術者を多く雇用し、学校に派遣すべきです。話題に登っていますが、実現できていません。

次に職場を考えてみます。会社で働いている視覚障害者の多数は、中途失明者です。その人達への支援は、文部科学省や教育委員会でなく、複数の省庁と地方自治体が提供することになります。全国に多くの支援窓口がつくられていますが、縦割りで、効率悪く運営されています。どの窓口でも、最低数の事務職員が、数年単位のローテーションで配属されてくるだけで、障害者に要求される情報技術の知識が、蓄積されることは、あまり期待できません。

国も地方自治体も、障害者自身も私達も、このような現状を改革する必要があると感じています。でも、融通がきかない社会構造の中に組み込まれている上、変革に必要な予算も割り当てられないまま、今日に至っています。大学においても、学部の縦割り構造と、予算が増えない事情は同じです。障害をもつ学生による権利主張が、長年にわたり積み重ねられ、大きな支援組織がつくられるに至った米国の大学では、支援室の中に、経験や教材が蓄積されています。日本でも、そのように、なってほしいと願っています。

ここに提案する新しい形の本は、上に述べた日本の現状を、少しでも、現場にいる当事者の努力で改めるため、開発したものです。最近の障害者教育現場では、障害者は一般生徒・学生と同じ環境で生活します。しかし、視覚障害者は、晴眼者が使うテキストを、音読してもらう程度の支援しか受けないことが、多いのです。私達は、障害者と晴眼者が、同じ教材が使い、共に、助け合いながら学ぶ環境を生み出したいのです。すなわち、生徒や学生が、教える側に立つことで、利用する内容や、利用する情報技術を、より深く理解するようになります。支援を受ける側も、仲間から教われば、気軽に質問ができるでしょう。晴眼者用の教材を読んでもらうだけでは、なかなか理解が進みません。新しい形の本を使うことで、現状が変わることを期待しているのです。

新しい形の本の、最初の例として、触覚、聴覚、視覚で読める、「触覚本 マンガ 塙保己一」を、出版しました。マンガの絵と文章がカラー印刷され、その上に透明な樹脂で、絵の輪郭線と文章の点字が重なっています。各ページの左上隅には、各ページに出ている文章を朗読するアプリを引き出す、QRコードが印刷されています。朗読音声とQRコードを読むアプリは、グーグルのプレーストアから、ダウンロードできます。

朗読でページの内容を聞きつつ、触覚図を指で見るようになっています。それだけでは、人物の顔を認識し、目や口の形から、笑っているのか、考え込んでいるのか、知るのは困難かも知れません。私達は、点字を読み取るような訓練をすることで、、顔の表情を読むことが可能になると考えています。実際、図を触って読むと、理解は確かなものになります。図形の読み取り訓練のために、パソコンのA4サイズのタッチスクリーン、あるいは、外付けのA4サイズのタッチスクリーン上に、代替えテキストが書き込まれたパワーポイントを、用意しました。指で触れた図が、詳しく説明される仕組みです。この仕組みを使って、図を読めるようになって欲しいのです。詳しくは、ダウンロードのページを見て下さい。

将来、障害の有無に関わらず、グラフや図形、写真が「読める」ようにしたい

例えば、天文学の講義を考えてみましょう。太陽系の惑星のような天体は例外として、3次元の分布を、見たり触わり、実感するのは、晴眼者でも、難しと思います。教科書や論文では、星、ガス、あるいは、銀河の分布を、地球を中心にした仮想球面に投影して、提示します。球面に投影したあとも、紙の上に表すのに、いろいろな投影法が使われます。どの投影法も、大きな歪みが出るため、視覚が使える人にも、3次元空間を把握するのは難しいのです。

我々が提案する、3次元空間認識法を紹介します。透明なプラスチック球面の内表面と外表面に、座標系や星・ガスなどの分布を、透明な触覚面として貼り付けるます。つまり、2つの空間分布を、透明な球の内表面と外表面に示し、透かして見たり、触って感じることで、3次元分布の相関を把握してもらいます。この方法は、球面を紙の上に投影しないため、歪みがでません。地球科学や地理学、さらには生命科学などで、有効と考えています。例えば、地球表面直下にあるプレートの形状と、地表の地形を、内表面と外表面で示す場合を考えます。内表面にプレートの輪郭が触覚線で描かれると、2つのプレートが衝突する部分の上の、外表面に山脈や海溝が分布することが、よく理解できます。生命科学でも、細胞やウイルスの立体構造を、判りやすく伝えることが可能になると、考えています。

視覚障害者が、触覚、聴覚、視覚を通して情報を得るには、スマホやパソコンが必要となる

現在のスマホやパソコンは、自前でアプリを開発し、全世界に提供できることも、大きな特長です。ここで紹介する本も、パワーポイントが持つ機能を使っています。カメラでQRコードを捉え、朗読音声を読み出すのも、スマホがやってくれます。これらのアプリが、自由にダウンロードできるのも、パソコンやスマホの機能のお陰です。

視覚障害者に便利なアプリが、グーグルからも、多く提供されています。グーグル・レンズは、クラウドサービスを通して、コンビニの商品の名前や、本のタイトルや出版元を教えてくれます。また印刷文を、OCRのように文字に変え、読んでくれます。音声で、文章が書けるアプリも、多く提供されています。近い将来、ロボット制御や、自動運転、セキュリティのために開発されたアプリが、視覚障害者用に書き改められ、提供されると考えます。触覚、聴覚、視覚を統合的に活用するために、スマホやパソコンが不可欠になりつつあることが、お判りいただけるでしょう。

スマートフォンやタブレットは、障碍者に向いているのです

スマートフォンやタブレットは、ほとんど、音声で使えるようになっています。イヤホン型の音声入出力器は、小声でも正確に認識します。残る問題は、アプリのマニュアルが提供されないこと、機器やOSの更新サイクルが短いことにあります。私達は、この点も、触覚図・音声つきマニュアルの提供などで、克服しようと考えています。

全国に、いろいろな公的な福祉施設や、公的支援を受ける民間の施設が多くあります。しかし、それらは、各施設のサービス対象が、視覚障害者、聴覚障害者、四肢機能障害者などと分かれています。役所から配属されてくる職員も、ほとんどが数年で移動するため、障害者が必要とする情報機器に習熟する時間がありません。障害者の情報機器の活用を支援し続けているボランティア団体も多くあるのですが、公的サポートが皆無に等しく、最低限の活動費すら確保できていません。この事情は、全て自前で賄っている我々も、同じです。

アンドロイド・スマホを視覚障害者用に構成するサービス

2020年に入ると、Pixel4Aなど、安価で高機能なが、市販されるようになりました。私達が推進しようとしている、触覚と音声が統合された理工生命系の教材は、パソコンだけでなく、スマホの機能も最大限に利用しています。そのさい、いくつかのアプリをインストールし、設定する必要があります。これらの設定が出来ない、あるいは、してもらう方が見つからない場合は、ご自分で入手されたPixel4を、送ってください。設定して返送するサービスをする予定です。同時に、触覚音声付きの、Pixel4の設定の解説マニュアルも提供するつもりです。


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